『蜩ノ記』を観た。
監督:小泉堯史
脚本:小泉堯史
古田求
出演:役所広司
切腹を言い渡された戸田秋谷を見張るために
檀野庄三郎が送られた、という話です。
原作未読です。
昨年4月に発表された
富士フィルムの映画用フィルム製造中止にともない、
この作品が国内製造フィルム最後の映画となるそうです。
一瞬一瞬を確かに生きれば、
死すら自分のものになりうるかもしれない
時代劇映画って観たことないなーって思っていたんですけど、
所謂着物を日常的に着ている登場人物が出る映画なら
観ていましたが、何となく自分が思う時代劇って感じでもなくて。
じゃあ、私が思う時代劇って何だろう?って思ったんですけど、
武士がいて農民がいてっていう階級があり、
その場で生活している人たちのあれやこれやが時代劇かな、
と思いました。
要は、私たちの見たことのない日本の生活を
見せてくれるのが時代劇って思っています。
『るろうに剣心』はファンタジーな部分多いし、
『超高速!参勤交代』は時代劇なんでしょうけど
そこまで「あぁ、この人たちってこんな風に
ふるまって、こんな言葉を話していたんだな」って
感じはあまりしませんでした。
コメディってのも関係あるかもしれませんね。
そういう意味では、『蜩ノ記』は
まさに私が思う時代劇でした。
私が思うこの映画の時代劇っぽさを具体的に挙げます。
①武家以上の人たちの姿勢がやたらいい
この映画はカメラが固定されているので、
基本カメラ自体に動きはありません。
どうやら編集されて、ズームにしているシーンも
あるにはあるのですが、基本的に動かない。
そのためもあるのか、武家以上の人たちの背筋が
ピーンとのびた座り姿の凛々しさには
現代劇にないものを見たなと思いました。
途中から農民の人たちも出てくるのですが、
だからといってひどく猫背の人はいなかったな…
そこらへんは監督の画作りのこだわりかもです。
②やたら所作がキレイ
所作がキレイというか、無駄がない。
大袈裟な動きがないなと思いました。
着物の構造自体が、袖があるので、
大きく振ったりしたら邪魔ってのもあってか、
きっとその時代の人たちの所作って
こういう感じだったんだろうなって思えました。
大きな見所の1つといって言いと思いますが、
岡田准一さんの稽古姿や太刀のシーンは
本当にかっこいいです。
所作等の稽古もされていたり、
そもそも格闘技なさっているようで、
迫力がありました。
画面自体動かないし、カットも長めので
「この人、強いんだ」ってごまかし無く思えます。
一朝一夕で出来るものじゃない所作は
それだけで身体的に、その難しさや暮らしぶりを
感じさせてくれるので、
それを大画面で観られたのは良かったなと思いました。
③ところどころ何言っているか分からない
というのは、単語の意味が分からないってことです。
話が通じない、とかそういうんじゃないです。
それでも、話は分かりますし、
映画を観るに当たって支障は全然ありませんでした。
むしろ表現方法が直接的じゃなくて、
何かかっこいいなとすら思いました。
大人なニュアンスとでもいいますか。
***
原作自体がそうらしいのですが、
とくにこれといった山や谷を
大袈裟に書かずに、淡々としていることもあり、
映画も淡々と進んで行きます。
なので、あんまり時間経過が分かりにくい話
だなと思うのですが、
ただ時間は流れて行き、
戸田秋谷が切腹する時間もやってくる訳ですから、
時間が経過する、ということを
身体的に伝わるようにされていると感じました。
それは刻一刻と移り行くものが
画面に映りだされるということで表現されていると思いました。
木々、花々、水面、雪、雲、炎、そして特に日の光です。
この映画の一番の不思議は照明でした。
なるべく自然光を活かした照明にしよう、というのが
肌で感じられました。
それだけに、どうやって撮ったんだろうって
思うことも多かったです。
勿論ですが、江戸時代には電気がある訳じゃないので、
日の光や炎で毎日暮らしていた訳です。
そして、そういう光にはフィルムのように
細かい粒で出来ているように私には感じていました。
日にあたる時とか、炎に手をかざす時とか、
電気みたいに全てを、光のあたるところ/あたらないところの
二つにするんじゃなくて、熱がグラデーションみたいに
時にまだらみたいに感じてきました。
そういう熱のもとで、この人たちは暮らしているんだ、と
感覚的に感じられるような画作りになっていて、
それをフィルムで撮られた画で、
大画面で観られるのは幸運なことだなと思いました。
あと、当時の人も切腹って
すごく嫌だったんだなって思いました。
フィルムとデジタルについては
『サイド・バイ・サイド』というドキュメンタリー映画がおすすめ
小泉監督は黒澤明組で
28年間助監督をされたいたそうです。
私はまだ観たことが無いので、観たいなーと思っている…